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第九十一話:犬神

解説:四国に伝えられる憑き物の一種。「犬神持ち」の気持ちが向いた人間に取憑き、様々な悪さを行う。例えば、犬神を持つ者がある人物を憎むと、犬神がその人物の元へ趣き、取り憑いて苦しめるという。
犬神の持ち主が死ぬと、今度はその一族の誰かに継承されてゆく。女に憑いて伝わると言われ、その為四国の人は、犬神筋と思しき一族からは嫁をもらわないようにしたという。

犬神については、「古今百物語評判」に書いてある。


●而慍斉先生はこう語った。
「四国に犬神というものがある。この犬神を家に受領している人を『犬神持ち』と言い、現在でも度々あることである。
例えばこの犬神持ちが友人の家へ行った際、その友人の家に美食珍酒があるのを見て、それに少しでも心が移った時には、その友人は必ず悪寒を生じて患い付き、何かと犬神持ちが心を移した美食珍酒のことを口走り、叫ぶのである。そこで病人の家族が、その犬神持ちの人にそれを知らせるか、或いは遠慮の心から彼に言い出せず、神官や山伏を呼んで御祓いをしてもらうと、その病は癒えると言う。
これほどまでに厄介なものなので、四国の人は犬神持ちの家をあらかじめ避けるようにして、婚姻なども決して結ばないという。その為、犬神持ちの家に生まれた人は、自分の身が忌々しいのに嫌気が差して悲しむのだが、先祖から伝えられた邪神なので仕方がなく、我が身を恨み、ただ嘆くばかりだということだ。
犬神の起こりを語り伝えたという話を聞くと、一つの柱に犬を繋ぎ、縄を少し緩め、器に食い物を盛り、その犬の口先がもう少しで届くという場所にそれを置く。そして犬を飢え死にさせ、その霊を祀り納めることによって犬神が生じるという。これは中国の蠱毒の類である。
しかしながら今の時代、偶然犬神を持っている人でも、どうにかしてこの神が何処かへ行ってくれることを願っているので、ましてや今更犬神を作ろうなどと思う人はいないはずである。これは名字も仏もない頃のことなのだ。
また、犬神は都の人には憑かないというが、都でも犬神を持っている人は多い。全てのことにつけ、本来自分をもてなすべき人が自分をもてなさないのに腹を立て、それを気にして言葉に出して言う―これが犬神である。
注がねばならない時に酒を注がず、人をもてなすことを知らない者は人間ではないが、自分がもてなされないからと言って、恨み言をとやかく思うのは畜生の類である。また、もてなされてその情けを知らないのは木や石である。
飲食の事に執着する者は、皆犬神の性質を持っていると言えるだろう」


山岡元隣のこの言葉は、今の世にも十分通じるものがある。
犬神という憑き物は別に珍しいものではなく、ひょっとしたら自分達の中に潜んでいるのかもしれない。


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