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第六十八話:こんな晩

解説:夏目漱石の「夢十夜」第三夜にも見える、古典的怪談。

●昔、或る満月の晩、一人の男の家に六部が訪ねて来た。
「世もふけてしまった。一夜の宿を貸しては下さらぬか」
男とその嫁は六部の頼みを聞き入れた。
「ああ、いいとも。この辺は狼が出て危ないからなあ」
六部は旅の疲れからか、早くに寝床に着いた。六部の寝ている部屋と障子の戸一つ隔てたところにこの家の夫婦がいて、何やら話し込んでいた。
「あんた、あの男の持っているもん見たかい?」
「いいや、見てないが」
「あの六部、えらい沢山金を持ってたのよ」
「何、金だと!」
金と聞いて男の心は揺らいだ。男の家は貧乏であった。もしここであの六部の持っている金が全て手には入れば、さぞや暮らしが楽になるだろう。
二人の意見は一致した。翌朝、六部がこの家から出てくることはなかった。そしてその頃から、この夫婦の暮らし向きは豊かになった。

数年後、夫婦の間に一人の男の子が生れた。ところが、二人には唯一つ、心配事があった。それはいつまで経っても息子が口を利けないということだった。同年代の他の子達は可愛らしく、流暢にお喋りをしているというのに、自分達の息子はずっとだまったまま、家から一歩も外へ出ることがなかった。
そんな或る日、男がもう寝ようとしているところへ息子が来て、
「おっとお、おらおしっこへいきてえ」
と言った。今まで一言も喋らなかった自分の息子が、とうとう話したのである。男は嬉しくて、息子を負ぶって外にある雪隠へと連れて行った。

丸い月の綺麗な夜だった。雪隠まで歩く男の背中には、先程生れて初めて喋った自分の息子がいる。男が未だ尽きぬ笑顔の儘に、満月を見上げると、
「・・・こんな晩だったなあ」
再び息子が喋った。
「え、何だって?」
男が聞き返すと、息子はこう答えた。

「お前が俺を殺したのも、丁度こんな晩だったなあ」




◆旅の宗教者を殺して金品を奪い取り、それがもとで家が栄える、という流れの話を総じて「異人殺し」と呼ぶ。池田彌三郎氏の「日本の幽霊」によると、こういった話は周りのものが当事者が富めるのを妬んで流した話ではなく、むしろ当事者の家の者が進んで流していることが多いということである。話によっては六部を殺害してから特に何も起こらなかったり、六部の生まれ変わりの息子が襲ってくる場合もあるが、今回は一番典型的な、上の話を採る事にした。
これが現代になると、六部だの大金だのという言葉は抜け落ちて、こんな話になる。



●あるところに美男美女のカップルがいた。彼等は結婚し、ついに子供まで生れた。しかしその子は自分達とは似ても似つかぬ、ひどく醜い子供だった。彼らはこれを恥に思い、子供を家に閉じ込めて、外には一切出さなかった。近所の人には息子は死んだと嘘を付いていた。

そんな或る日、二人は恐ろしい計画を実行した。
「●●ちゃん、今日は遊園地に行きましょうね」
息子は家から一歩も外へ出たことがなかったので、これを聞いて物凄く喜んだ。そして三人は遊園地へ行った。遊園地に着くと、男の子は見たこともない乗り物にはしゃぎ、今まで嬉しいことがなかった分楽しんだ。それが最初で最期の楽しみだとも知らずに・・・。
しばらくすると、男の子はトイレに行きたくなった。
「ママ、おしっこ」
母親はトイレとは別の方向へ男の子を連れて行った。そこは遊園地のはずれの断崖絶壁だった。
「ここでしなさい」
男の子は言われたとおりにそこで用を足そうとした。と、その時、母親は男の子の背中を思いっきり押した。男の子は絶壁の下へ落ちていった。
「私がしっかりしていればあの子は・・・」
警察は、自分が目を離している隙に息子が崖から落ちてしまったという母親の証言を完全に信じたので、以前から自分の息子を殺そうと計画し、今日それを実行した二人が罪に問われることはなかった。

そして一年経ち、二人の間にまた子供が生れた。今度は二人に似てとても可愛らしい子供だった。息子が成長し、前の子供くらいになったとき、二人は息子を遊園地へ連れて行った。それは二人があの子を殺害した遊園地だった。この辺りにはここぐらいしか遊ぶところがなかったのである。男の子は遊園地に来たことがなかったので、思い切りはしゃいだ。
しばらくすると、男の子はトイレに行きたくなった。
「ママ、おしっこ」
母親は息子をトイレへ連れて行ったが、この時トイレは非常に込んでいた。
「ママ、もれちゃうよ」
仕方なく母親は、トイレとは別の方向へ男の子を連れて行った。そこは遊園地のはずれの断崖絶壁だった。
「ここでしなさい」
男の子は言われたとおりにそこで用を足そうとした。と、その時、男の子がくるりと振り返り、母親に一言、

「ママ、今度は突き落とさないでね」


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