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第六十二話:舌長姥

解説:舌の長い老婆の妖怪。その長い舌で人を嘗め、その肉を削ぎとってしまうという。泉鏡花の幻想戯曲「天守物語」にも、相棒(?)の朱の盤と一緒に登場する。
朱の盤「や、姥殿、その上のまた欲があるかい」
舌長姥「憎まれ山伏、これ、帰り途に舐められさっしゃるな」(とぺろりと舌)
朱の盤(頭を抱う)「わあ、助けてくれ、角が縮まる」
というやりとりがあって微笑ましい。
舌長姥がどんな妖怪なのかは、朱の盤同様、「老媼茶話」という書物の中に詳しい。

●越後から武蔵へ上ろうとしていた二人の旅人が、芦野原海道にさしかかった時、諏訪千本の松原で丁度日が暮れて、道に迷ってしまった。すると遠くの方に火が見えたので、そこへ漸く辿り着いてみたところ、そこには軒の傾き、壁の崩れたあばらやがあり、七十歳程の老婆が囲炉裏の側で苧(からむし)を紡いでいた。
旅人は戸を叩き、一夜の宿を乞うた。
「私は越後から江戸へ行こうとしている者ですが、この辺りの地理については詳しくなく、道を見失ってしまいました。夜明けまで宿をお貸し下さい」
すると老婆は立て戸を開き、こう言った。
「ここは人をお泊めするような家ではありませんが、道にお迷いなされたということならば、宿をお貸ししましょう」
そして老婆は旅人を中へ入れた。
季節は秋、落ち葉も寥々としていて淋しいところへ、老婆はそれを焚いて、茶を煎じ、旅人をもてなした。その内、一人の男が、疲れのためだろうか、正体もなくなり眠ってしまった。もう一人は寝ずに柱にもたれかかっていたところ、老婆は時々目を大きく開き、口を開け、五尺もの長い下を出して、首を伸ばし、眠っている男の頭を嘗め回したのである。残りの旅人はこれを気味悪く思い、咳払いをすると、老婆は何気ない振りをして再び苧を紡ぎ始めた。
その時、窓の外から家の中を覗くものがいて、こう言った。
「舌長姥や舌長姥、どうして仕事を行わぬのだ」
姥が答えて、
「誰じゃ」
というと、
「諏訪の朱の盤坊だ。手伝ってやろうか」
と返って来た。そして戸を破ってそれが中に入ってきた。
旅人が見ると、それは顔の長さが六尺もあり、顔が朱のように赤い化物だった。旅人が刀を抜き、はたと斬り付けると、斬られた坊主はどこかへ行ってしまった。老婆はというと、眠っているもう一人の旅人を引き下げて表へ出て行ってしまった。
すると、今まであったはずの庵は跡形もなく消えて、荒れ果てた野原だけがそこにあった。あばら屋もなくなり、仕方がないので旅人は、大木の根に腰掛け、そこで夜を明かした。
日の出てから男が辺りを見回すと、はるか遠い草叢の中に、昨夜連れ去られた男が頭から何まで、体中の全ての肉をしゃぶり喰われて死んでいた。その亡骸は骸骨を残すばかりだった。
それから旅人は一人、白川の城下へ辿り着き、今までのことを語ったという。


人間を舐り殺してしまうとは恐ろしい妖怪である。


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