第七十二話:海坊主

解説:西国の海に現れる、巨大な坊主の妖怪。「絵本小夜時雨」によればこうである。

●享保の頃、大阪に三河屋某という者がいた。呉服や小間物を仕入れて、九州へ行こうとし、河口から順風に帆を上げて、はるか遠くの沖へと至った時、突然空が曇り、荒波が起こって船を上下に揺り動かし、
「わあっ」
と驚いて見ると、背が一丈以上もあろうと思われる、法師のような異形の存在が船の舳先に現れ、しばらくすると海中へ没していった。そのうち雨もやみ、元のように空は晴れ渡ったと言う。これぞ世に言う海坊主というものである。沖には時折現れるという。


この他にも、すっぽんの身体に人の顔、という奇妙な形の海坊主もいて、これを漁師が見るときは魚が獲れないという。また、これを殺そうとすると、手をこまねいて目には涙を浮かべ、許しを乞うと言う。

また、昭和四十二年四月二十八日、木村実という人が船長を務めていた第二十八金毘羅丸は、ニュージーランド沖でカバのような奇怪な怪獣を目撃したという。海坊主の正体も、こんな未知の水棲獣なのだろうか。


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