第二十九話:累
解説:下総の国(今の茨城県)は羽生村というところに、累(かさね)という女が住んでいた。
累は容姿が醜い上に性格も悪かったが、累の親は土地を持っていたために、それに目をつけた与右衛門という男が累と結婚した。
ところが、与右衛門はもともと好き好んで累と結婚したわけではなかったので、或る日累を川に落として溺死させ、累があやまって川に落ちたと嘘を付いて埋葬した後、家に後妻を迎えた。与右衛門の累殺しには目撃者がいたが、累の性格の悪さを知っていたため彼に同情し、そのことを敢えて他人には語らなかった。
ところが、後妻はすぐに死んでしまった。
与右衛門はその後も次々と後妻を迎えたのだが、それらも皆立て続けに死んだ。しかし、六人目の妻はすぐには死ななかった。妻は一人の子を産み、その子に菊という名をつけた。そして菊が十三歳の時、六番目の妻は死んでしまったのである。
そして事件は起こった。
或る日、菊が口から泡を吹いて倒れたのである。与右衛門と、菊の夫である金五郎が菊を介抱すると、菊は与右衛門を睨み付けて言った。
「わしはお前に殺された累である」
菊に取り憑いた累は、与右衛門の妻殺しを暴露し菊を苦しめた。しかし、法蔵寺の住職が来て念仏を興行し、累の菩提を弔うと、累は菊から離れていった。
しかし、その後も累は数回現れ、菊を苦しめた。
そんな折、祐天という僧が羽生村に来た。祐天は菊に念仏を唱えさせることにより、見事累を成仏させることに成功した。
祐天はその後、再び菊に取り憑いた「すけ」という名の少年の霊も成仏させ、その名は広く知れ渡ることとなった。
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