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第四十七話:狢

解説:狢(ムジナ)とはアナグマのことである。もっとも、地方によっては狸やハクビシンのことを指すらしい。アナグマは本州、四国、九州に分布するイタチの仲間で、穴を掘ってそこで生活している雑食性の哺乳類である。学名はMeles meles anakuma である。

東京は赤坂に紀の国坂という坂があり、そこには化狢が良く出たらしい。
或る晩、そこを通りかかった男が濠端で女がしゃがんで泣いているのを見かける。
「もしっ、もしっ」
男が声をかけるが、女は相変わらず泣いている。男が更に声を掛けると、女はくるりと向き直り、片手で自分の顔を撫でた。
「うわああああああ!」
男は女の顔を見た途端、びっくりして駆け出した。無理もない。女の顔は目も口も鼻もない、のっぺらぼうだったのである。
男はそば屋のところへ逃げ込んだ。
「お、おおおい、ちょっと聞いてくれよ」
「どうしなすった、辻斬りかい?」
「い、いやそうじゃねえ」
「じゃあ何だ?盗人かい?」
「いや、それでもねえ。お、女がその、の、のっぺらぼうだったのよ」
「へえ、それはこんな顔じゃなかったかい?」
そば屋は自分の顔を撫でながら男の方を見た。
「ぎゃあああああ!」
男は再び叫んだ。何とそば屋までもが、先ほどの女と同じように目も鼻も口もない、のっぺらぼうの化物だったのである。


こういったパターンの話は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。これを「再度の怪」という。上の話は小泉八雲「怪談」所収の「むじな」から取ったが、他にも「再度の怪」を扱った話は数多く存在する。日本の怪談話には欠かせないものだ。
ちなみに、英国の怪談作家・E.F.ベンスンの短篇にこの「再度の怪」を扱ったものがある。創元推理文庫から出ているアンソロジー「怪奇礼讃」所収の「跫音」がそれだ。興味のある方は是非御一読を。


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