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第二十話:山ン本五郎左衛門

解説:「悪左衛門をはじめ夥間一統、即ちその人間の瞬く間を世界とする―」(泉鏡花『草迷宮』)


備後国(広島県)三好という所に、稲生平太郎という若者がいた。寛延二年五月の末、彼は隣家の権八という相撲取りとともに百物語を行い、その後くじ引きで当たったものが比熊山へ上り、肝試しをすることとなった。当たり籤を引いたのは平太郎だった。そして比熊山へ上り、肝試しの証拠である印を、触ると祟りがあると言う頂上の塚へ括りつけ、無事戻ってきた。百物語の効果もなく、その時は何も起こらなかった。

しかしそれから一ヵ月程後の七月一日、怪異は突然起こった。練塀の屋根の上から大きな目が平太郎を見つめたり、平太郎の家の畳が勝手に舞い上がるなどの、今で言えばポルターガイスト現象が起こったのである。また、権八のところにも奇怪な坊主が現れた。そしてこの日から一ヶ月間、平太郎の屋敷は怪異に見舞われるのである。

一ヶ月間、平太郎はいかなる怪異にも臆することなく、平然と構えていた。そして今日は七月の晦日である。平太郎は、隙があれば化物を成敗してくれようと思っていた。
そんな時、平太郎のうしろにある障子がさっと開き、大きな腕が平太郎を掴もうとした。平太郎が気付き、さっと斬りつけると、手は引っ込んで行った。平太郎が追おうとすると、
「待たれよ」
化物が退いていった方から声が聞こえた。そして暫くすると、立派な服を着た侍姿の大男が入ってきた。男は山本(さんもと)五郎左衛門と言う魔王であった。山本は最後に平太郎の一番嫌いな蚯蚓の化物を出してきたが、平太郎はそれにも何とか耐えた。すると魔王は平太郎の気丈さをたたえ、一つの槌を平太郎に差し出してこう言った。
「今後怪しいことがあれば、この槌を振り『山本五郎左衛門来たれ』と言えば、いつでも助けに来よう」
その時、平太郎の傍に、平太郎を守る産土神が現れた。すると、
「私が帰る様を見送るがよい」
山本はそういって縁側に出た。平太郎も続けて縁側へ這い出る。
そこには山本の家来である、百鬼夜行の妖怪達が待っていた。山本が明らかにサイズの合わない駕籠に足以外は難なく乗り込むと、それらは上空に飛び去っていった。


上に載せたのは「稲生物怪録」という有名な話である。本来はもっと長い話であるが、ここで書いていたらきりがないのでかなり要約してここに載せることにした。興味の或る人は、専門の解説書を読むなりで各自確かめて頂きたい。
また、この話は様々な作家によって小説化されている。有名なものでは、稲垣足穂の「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」などがある。平太郎の化物譚に触れた部分は全文カタカナと漢字だけなので、読むのにはかなり骨の折れる作品だが、ラストは結構すがすがしい感じの傑作である。また、泉鏡花が「稲生物怪録」を参考にして書いたのが、かの有名な「草迷宮」である。


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