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第三十四話:朱の盤

解説:泉鏡花の戯曲に「天守物語」という作品がある。この作品を書く際、泉鏡花が資料として参考にしたものが「老媼茶話」という奇談集である。この本に朱の盤という化物の話が見える。

●奥州会津諏訪の宮に、首の盤(表記原文ママ)というおそろしい化物がいた。
或る日の夕暮れ時、二十五、六の若侍が一人、この諏訪の宮の前を歩いていた。常日頃朱の盤の化物のことを聞いていたので、薄気味悪く思っていたところ、これまた二十六、七の若侍が来た。良い連れが出来たと思い、彼を伴って語るに、
「ここには朱の盤という有名なもののけがいるということを、あなたは聞いておりませぬか」
と尋ねると、後から来たその侍は、
「その化物はもしやこんなものではござらぬか」
と言って、その顔は見る見るうちに恐ろしい化物の顔に変わった。眼は皿のように丸く大きく、額には角が一本あり、顔は朱色で髪の毛はまるで針のようである。また、口は耳まで裂けていて、歯を鳴らす音はまるで雷鳴のようだった。侍はこれを見て、恐怖のあまり気絶してしまった。

しばらくして気付き、辺りを見回すと、そこは諏訪神社の前である。侍は先ほどの恐怖からか、喉の渇きを覚えたので、そこからしばらく歩いたところにある民家に入り、水を一口だけくれるよう頼んだ。するとそこの女房が、
「どうしてあなたは水を欲しがっているのですか」
と聞くので、侍が先ほどの出来事を話すと、
「それは恐ろしい目に遭いましたなあ。もしかして、その朱の盤とはこんな顔ではございませんでしたか」
といって若侍を見つめる顔は先ほどの朱の盤の化物。侍は再び気絶した。
その後、侍は意識を取り戻したが、それから百日目に死んでしまったという。

ハーンの「怪談」で馴染み深い「むじな」と同じく、再度の怪に属する話であるが、笑い話のような「むじな」に比べてこちらは少し不気味である。


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