第四十三話:竜田姫
解説:「曾呂利物語」にこんな話が見える。
●何某の娘が成人する折に侍女を沢山付けた。そんなところに何処からともなく、とても高貴な女が一人佇んでいて、宮仕えを希望する理由を言ったので、
「幸い当家ではあなたのような人を探していたのです。さあいらして下さい。奥様にあなたのことを申し上げましょう」
と言って、そのまま宮仕えさせることとなった。
その女の宮仕えに対する気持ちの入り様はさることながら、絵解、花結びが上手で、縫い物などは織姫にも負けないほどの腕前であり、染めものは竜田姫(秋の女神)も恥じるであろうほどに素晴らしかった。
しかしそんなある時、北の方が女の部屋を覗くと、夜が更けてともし火が微かな部屋の中、なんと女が自分の首を取りはずして前の鏡台に掛け置き、その首にお歯黒、化粧を施してから再び自分の胴体にくっつけ、そのまま何事もないような顔でそこにいたのである。
北の方が主人にそれを報告し、
「こんなことがありましたがいかがなさいますか」
と尋ねると、
「まずはそれとなく暇を出しておけ」
といったので、北の方は女を呼んで、
「今まで言えませんでしたが、人が多く居るので『一人か二人に暇を出せ』と主人がおっしゃいました。しかしあなたのように役に立つ方は他にいらっしゃらないので、あなたにはいつまでも居て欲しいと思っていたのですが、どの人も代々当家に仕えている者だけに暇を出すことが出来ません。そこで先ずあなたに何処かへ出て行って頂きたいと思います。主人の命令を聞いてくれるのであれば、娘が嫁入りの時にでもまたこの家に迎えましょう」
と言った。
その時、女の顔色が変わり、
「何を御覧になって左様なことを仰るのですか」
と北の方の近くへ拠ってきたので、北の方は、
「あなたは何を言うのです。やがてはここに呼んで差し上げると言ったではありませんか」
とさらっと仰ったが、
「いやいや、情けのないことだ」
と言って女は飛び掛ってきた。
そこで後ろに居た、この女の事情を知っている男が刀を抜き女を切った。切られて女が弱ったところを引き直し、思うままに再び切りつければ、女の正体は角を生え、口が耳まで裂けた老猫であった。その名を竜田姫と呼んだという。