第五十三話:一寸ババア

解説:昔話の「一寸法師」のように、体が小さく、針を武器に人間を刺し殺す妖怪。一寸ババアに関する話は、大体以下のような形にまとまっている。

●とある静かな温泉旅館で、悲惨な殺人事件が起こった。
トイレで女性の惨殺死体が見つかったのである。女性の身体は、全身に渡って鋭利なもので突き刺されていて、血まみれの状態だった。しかも、トイレのドアには鍵がかけられていて、個室の中は密室だった。すぐさま警察が来て事件の解明に急いだ。

ここに一人、内心穏やかでない人物がいた。それはこの旅館の主人の息子だった。実はこの男、トイレにビデオカメラを仕掛けていたのである。つまり、盗撮を行っていたのである。
警察の捜査が進めば、自分の仕掛けたビデオカメラが出てきてしまうだろう。そう考えた彼は、警察に全ての事情を話した。すぐに盗撮ビデオは見つかり、その場で押収された。
勿論、彼のやったことは罪になる。しかし、彼の盗撮行為が事件の解明に思わぬ進展をもたらした。すなわちずっとカメラを仕掛けていたということは、そのカメラは事件の一部始終を記録している、ということである。事実、カメラのレンズは事件の全てを見ていたのだ。
警察関係者が見守る中、問題のビデオは再生された。被害者が用を足す場面が延々と再生される。そして女性が立ち上がった瞬間、トイレの窓から小さな鼠のようなものが入ってきた。しかし、よくよく目を凝らすと、それが鼠でないことが分かった。

それは小さな老婆だった。

老婆は女性に飛び掛り、持っていた針で女性を刺し始めた。とてもすばしっこく、あっという間に女性は全身をめった刺しにされて倒れた。
唖然とする捜査員達。やがて女性を殺し終わった老婆は、捜査員達の方を、つまりビデオカメラのレンズの方をきっと睨んだ。そして一言、

「つぎはお前の番だよ」

老婆がそういった直後、捜査員のいる部屋の天井がガタンと鳴った。


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