拾遺之二十五:蜃気楼

●「史記の天官書にいはく、海旁の蜃気は樓台に象ると云々。蜃とは大蛤なり。海上に氣をふきて、楼閣城市のかたちをなす。これを蜃気楼と名づく。又海市とも云」(今昔百鬼拾遺 雲)

●狐だま、海市、かいやぐら、浜遊びなどともいう。
蜃気楼は実際に海辺の町などで見られる自然現象である。大気の温度差によって光が曲げられ、船や町の形状が変わって見える。
自然科学的に見れば、単なる大気と光の悪戯だが、人間の目から見れば神秘的なことこの上ない。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』では、主人公が夢のような異世界へと入り込むきっかけをこの蜃気楼が担っている。乱歩はレンズなどの光学器機に関する怪談を多くものにしているが、その中でもこの『押絵と旅する男』は、最もスケールの大きなレンズ怪談である。

さて鳥山石燕も書いているように、昔蜃気楼は大蛤や龍(蛟)が気を吐き出し作るとされていた。蜃気楼の「蜃」とはその龍のことを指すが、大蛤のこともそのように呼ぶ。
面白いのが、蜃気楼の別称で狐だまや狐松原など、「狐」とつくものが多いことだ。正体不明の妖怪現象を狐狸の仕業とすることは多いが、蜃気楼も狐の仕業であると考えられていたのだろうか。ちなみに、新潟では団三郎狸がこれをつくるとされていた。


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