第十一話:魍魎

解説:「魑魅魍魎」という言葉がある。「広辞苑」に拠れば、

●魑魅>山林の異気から生ずるという怪物。山の神。すだま。
●魍魎>@水の神 A山川の精。木石の怪

であるという。つまりこの四字熟語は山野河川あらゆる場所にある怪を指すのである。


石燕の「今昔画図続百鬼」では、魍魎は子供のような姿の妖怪として描かれている。曰く「形三歳の小児の如し、色は赤黒し、目赤く、耳長く、髪うるはし。このんで亡者の肝を食うと云」
「亡者の肝を食う」とあるが、「耳嚢」にはこんな話が載っている。

●芝田何某という御勘定を勤めていた人が、先年、美濃の普請御用でかの地に行った際、出立前に雇った一人の使用人を一緒に連れて行き、それに給仕させていた。
そんな或る夜、彼が宿で寝ていたところ、夜中にその使用人が夢に現れ、
「私は人間ではありません。魍魎というものです。やむをえない事情があるのでお暇を下さい」
という。役人が、
「止むを得ない用があるのなら暇をやるが、其の前にそれを詳しく聞かせてはくれぬか?」
というと魍魎は、
「私達には死体を取る役目があり、この度私がその役に当たったので、この旅宿村から一里程下のある百姓の死体を取りにいくのです」
と答えいなくなった。役人は、
「とりとめもない夢を見た」
と気にも留めずに眠りに就いた。
しかし翌朝使用人がいなくなって居るというので、芝田はたいそう驚いた。

その後、宿から一里程離れたところのある人の母の事を聞いたのだが、
「今日葬式をしたところ、野道で黒雲が立ち覆い、棺の中の遺体が消えた」
とその土地の者が話していたのを聞き、更に驚いたという。


つまり人間に化けていたその魍魎が、死体を持ち去ってしまったのである。


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