第九話:姑獲鳥

●お産で死んだ女性の妖怪。産女とも書き、また乳母女(うばめ)とも言われる。

この妖怪のエピソードとしてよく知られているのが、道行く人に赤子を託す話である。
雨の日になると、赤ん坊を抱いた産女が現れ、道行く人にしばしの間赤子を抱いていてくれと頼む。そこで産女の頼みを聞き入れ、うっかり赤子を抱いてしまうと、その赤ん坊が重くなるというものである。この時、重い赤ん坊に耐えていると、産女が怪力を授けてくれるとも言われている。地方によっては雪女がこうした性質を持つところもあるし、現代の「闇子さん」(花子さん同様、トイレに現れる妖怪)なる妖怪も人間に赤子を託そうとする。


江戸時代の怪談集「宿直草」には、以下のような話が載っている。

●寛永四年の春、或る者の下女が子を孕んだ儘死に、それが産女となった。声を聞いた人によると、産女は「わああひ」と泣き、その声は哀しげだったという。
生前、産女には与七という名の男がいた。産女は夜な夜なかの男の寝室に出没し、男は眠ることが出来なかった。怒った与七は柱に産女を縛りつけ其の儘にしておいたが、明くる日には血の付いた継ぎ切れを残して産女は居なくなっていた。
その後も産女は絶えず男の元を訪れた。お経を読んでもらったが効果はなく、与七は魂が抜けたようになってしまった。
そんな時或る人の言うには、
「あなたのふんどしを産女の来る場所に置いておけばその後は来なくなると云う。やって見なさい」
男が言うとおりにすると、果たして其の夜産女は来て去った。次の日見るとふんどしはなくなっており、産女も二度と来なかったという。


同じく江戸の怪談本である「百物語評判」には、「其のかたち、腰より下は血にそみて、其の声、をばれう、をばれうと鳴くと申しならはせり」とある。「わああひ」と「をばれう」、いずれにしても何処か不気味である。


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