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拾遺之十六:人形

●人形(ひとがた)は古くから、人間の身代わりという意味を持っていた。例えば形代など、草や紙などの人形をした簡単な素材に身の穢れや災いを託し、川に流して子供の安全を願ったという。形代は年代を経るごとに複雑で視覚的美しさを持ったものへと変遷していき、現在の雛人形のような豪華なものに終着した。

人間の形に似せて作られている為なのか、人形にまつわる怪談は古今東西数多く存在する。
江戸川乱歩は随筆「怪談入門」の中で数多くの怪奇小説を分類、紹介しているが、その項目の中には「人形怪談」も含まれる。当の乱歩自身、人形を扱った怪談小説を書いており、「人でなしの恋」「押絵と旅する男」など、人形怪談を最も好きな範疇のものだと言っているだけあり、その作品の出来も随一である。
また『絵本百物語』の中に「夜の楽屋」という話がある。これは人形浄瑠璃の「仮名手本忠臣蔵」に登場する、高師直と塩谷判官の人形が夜な夜な争っていたというものであるが、精巧につくられた人形達が魂を持ったのだろうか。

以下の話は、『新説百物語』に見える、童話のような不思議な人形譚である。


●諸国巡礼の僧がいた。東国へ着いた際に日が暮れ、野はずれの一軒屋に宿を借りた。そこの主は老女で、娘と二人で暮らしていた。二人は僧に麦飯を与えて寝かせた。
夜が更けた。すると老婆はこんなことを言った。
「娘よ。人形を持ってくるのじゃ。湯浴みさせよう」
僧はその言葉を不思議に思い、寝たふりをしながら盗み見聞いていた。すると納戸の中から六七尺の裸人形を二体取り出し、娘が出てきた。娘が老女に人形を渡すと、老女は大きなたらいの中に湯をとり、中へ人形を入れて湯を浴びせた。
すると人形は人のように動き、水を泳ぎ立ち居を自由にしたではないか。あまりの不思議に僧も起き出し、老女に尋ねて云った。
「これはどういった人形なのです。面白いものだ」
すると老女は答えた。
「これらは私の作ったもので、二つだけ持っております。お望みならば差し上げましょう」
これは良い土産になると思い、僧は人形を風呂敷に包んで老女に一礼し、翌日家を発った。
半里ばかり進んだ頃のこと、風呂敷の中から人形が声を出し、
「ととさま、ととさま」
と呼ぶ。僧が何だと答えると、人形は云った。
「あの向こうから来る旅の男はつまずいて転びます。どうにかして薬を与えてやれば、金子一歩礼をしてくることでしょう」
そうしている内に旅の男が来たが、人形の云った様にうつむきにこけて、鼻血を多く流した。僧があわてて男を介抱してやると、男の気分はよくなり、金子を一歩取り出して僧へ与えた。辞退したのだが是非にと言うので、僧は貰った金子を懐へ納めた。
しばらくすると、今度は馬に乗った旅の男が現れた。するとまた風呂敷の中から声がして、
「ととさまととさま。あの旅の者馬から落ちるでしょう。薬をお与えになれば銀六七匁をくれるでしょう」
果たして人形の云ったとおりとなり、僧は銀六七匁をもらった。
僧は何となく恐ろしくなってきた。そこで風呂敷から人形を取り出すと、道端へそれを捨てた。しかし幾たび捨てても人形は人のように立ち上がり、
「今はもうととさまの子です。離れることは出来ません」
といって追いかけてくる。人形は飛ぶように足が早く、遂に追い付いて僧の懐の中へと入った。
厄介なものを貰い受けたことよと思った僧は、その夜宿に泊まると、夜こっそり起きて宿の主人に相談した。すると主人はこう云った。
「それには良いやり方があります。明日、道で笠の上に人形を乗せて川端へ行き、裸になって腰のところまでずぶずぶと水に漬かるのです。そうして溺れる真似をして菅笠を川へと流すのです」
翌日、主人の行ったとおりにしたところ、果たして人形は笠に乗って流れて行き、以後何事もなかったという。


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