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拾遺之十:黒猫

●僕はむしゃくしゃしていたんだ。
 あの日はさいあくな一日だった。忘れ物をして先生に怒られるわ、じしんのあった算数のテストで0点をとるわ、一番の親友とケンカをしてしまうわで、いいことなんでひとつもない。僕はむかついて、足元の石をけりながら、帰りみちを歩いていたのさ。

 (カツッ)

     (カツッ)

         (カツッ)

 石は僕のつまさきからはなれて、道をころころと転がっていく。ああ、面白かったさ。少なくともいらいらをおさえるには、石をけるのが一番なのさ。
 すると僕の目の前を、一匹の黒猫が横切ったんだ。僕は友達から、黒猫が目の前を横切ると不幸になるなんて聞いていたもんだから、猫は好きな方なのに、その猫いやにむかついてさ、けっていた石をつかんでそいつに思いっきりなげたんだ。
(ギヤッ)
 黒猫はスゴい声を出してどっかへいっちゃった。石は猫の首のところにあたった。道に血が垂れていた。今おもうと、かわいそうなことしたなあ、て思うけど、その時はむしゃくしゃしていたもんだから、
「へん、ざまあみろ」
 なんて思ったのさ。
 猫を退治したらむしゃくしゃが少しよくなったのかなあ、僕はお腹がへってきた。ポケットにはきのうもらったお小遣いがあったから、僕はいつもいく近所の駄菓子屋へ行ったんだ。下校途中の買い食いは禁止されてるけど、みんな先生の言うことなんて聞いてない。あそこのおばさんはとてもいい人で、小学生に良くおまけをしてくれる。だからみんな行くんだよ。
 せまい道をあるいていくと、おばさんの店のカキ氷の旗が見えてきた。赤い字で「氷」と書いてあって、その下に青い波の絵が描いてある。僕は走っていった。
 戸棚にはいろんなしゅるいのお菓子が並べてあって、正直どれにしようか迷った。でもいつまで迷ってても決まらないから、てきとうにお菓子をつかむと、奥に居るおばさんをよんだ。
「すみませーん」
 いつもならにこにこして出てくるのに、今日はちっとも出てこない。店は開いてるから休みじゃないと思うんだけど…
「これくださーい」
 僕がもう一度叫ぶと、おばさんはやっと奥から出てきてくれた。でもおかしいんだ。おばさんは怖い顔をしながら出てきた。右手で首を押さえている。肩でもこったのかなあ。
「おばさん、首どうしたの?」
 僕は聞いた。でもおばさんは相変わらず怖い顔をして答えない。僕が棚に置いたお菓子を見つめ、袋にいれながら、
「百円」
 と一言だけ。僕はポケットから百円をとりだし、おばさんにわたそうと手を差し出した。そうしたら、おばさん、僕の手をいきなりつかんで、怖い顔で僕の目をにらみつけてきたんだ。
「な、なんですか?」
 すると、おばさんは僕にこういったんだ。

「あんただね。さっき猫に石をぶつけたのは。生き物を傷つけちゃいけないよ」

 おばさんは僕が猫に石をぶつけたのを見ていたんだ。僕がごめんなさい、というと、おばさんは僕の手をはなして、
「ああ、首が痛むわ」
 と言ってまた奥のほうに戻っていった。その時僕は見たんだ。おばさんの首のところから、真っ赤な血が垂れていたのを…



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