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拾遺之十二:吸血鬼

●人間の生き血を吸うもの。
西洋のヴァンパイヤ(vampire)は何らかの要因で蘇った死者とされ、夜な夜な墓を抜け出ては生者の血を吸うために村や町を彷徨う。
永遠の命を有し、活動している夜の間は無敵だが、昼間の吸血鬼は全くの無力である。太陽の光に当れば灰となってしまうし、また首を刎ねられたり心臓に杭を打たれれば滅びてしまう。吸血鬼が十字架や聖水、ニンニクに弱いとされるのは、吸血鬼信仰がキリスト教と結びつき利用されてきた為である。カトリックでは破門された人間や犯罪者がこれになるとされた。
吸血鬼伝説の背景には、ポオの小説にもあるような「早すぎた埋葬」(仮死状態の人間が埋葬され、墓中で息を吹き返すといったもの)や、かつて欧州全土で猛威を振るった黒死病(ペスト)の存在があるという。また人狼と混同されることもあり、生きているうちに人狼であった者は、死んだ後吸血鬼になるなどとも言われる。
とりわけ伝説の盛んだったのはスラヴ圏であるが、墓を抜け出て人の生き血を吸う死体の伝説は欧州全土に流布していて、また映画「霊幻道士」で馴染みの深い、中国のキョンシーもその特徴によく当てはまる。「吸血」、「蘇る屍」といった個々の特徴を分けて考えれば、広義の吸血鬼は世界中いたるところで見つかることだろう。

ここでは日本の吸血鬼について簡単に言及することにしよう。


(1)産女
本来の産女とは本来、お産で死んだ女性の亡霊だったが、中国から姑獲鳥(こかくちょう)が入ってきて混同され、幽霊とも妖怪ともつかない不思議な存在となった。
どちらかといえばこの姑獲鳥の方が吸血鬼に近い。姑獲鳥は夜行性の怪鳥で、普段は女人の姿だが毛を纏うと鳥の姿になり、夜な夜な飛んでは子供の服に自らの血を付けて行く。これは姑獲鳥が子供を攫おうとするときの目印で、攫われた子供は姑獲鳥が育てるのだという。

(2)陰摩羅鬼
屍体の気が変じてこの鳥になるという。

(3)山地乳
ドラキュラは蝙蝠に変身するが、この山地乳は蝙蝠が野襖に、更に野襖が年月を経てこれになる。

(4)牡丹燈籠
安易に吸血鬼と結びつけることは出来ないが、夜な夜な通うごとに男の精気を吸い取っていくというのは、かのドラキュラにも通じるものがある。被害者が自ら悪いと分かりつつも吸血鬼のいいなりになってしまい、結局は命を落とすことになるというのも同じである。
ただし牡丹燈籠の女幽霊は、その正体は骨である。死して後も腐らず、血色の良い西洋のヴァンパイヤとはこの点が対照的である。

(5)青頭巾
吸血鬼伝説と「性」との関係はかなり深いものである。性と言っても、何も異性同士に限るものではなく、文学上にはレ・ファニュの「カーミラ」のように、同性愛者の吸血鬼も多い。
種村季弘はその著書「吸血鬼幻想」の中で、少年愛の世界こそ吸血鬼の世界に親しいとした上で、秋成の「青頭巾」と「菊花の約」を吸血鬼幻想文学の筆頭とせねばならないと言っている。愛しさのあまり、稚児の亡骸を喰らい尽くしてしまった僧の物語は、世界一悲しい吸血鬼小説と言えるだろう。

(6)紫女
血を吸わねば吸血鬼じゃないとお考えの向きには、「西鶴諸国ばなし」の紫女を紹介しよう。紫女は男の生き血を吸い、衰弱死させてしまう怪女である。

(7)磯女
「日本の海の幽霊・妖怪」(関山守弥)によると、蟹の化身である磯女は人間の生き血を吸うという。その吸い方も変わっていて、長い髪の毛が人間に触れると、触れたところから血液が髪の毛を伝って流れ、血を吸われてしまう。




参考文献;
「吸血妖魅考」(M.サマーズ、日夏耿之介・訳、ちくま学芸文庫)
「吸血鬼幻想」(種村季弘、河出文庫)
「ホラー小説大全」(風間賢ニ、角川ホラー文庫)
「吸血鬼ドラキュラ」(B.ストーカー、平井呈一・訳、創元推理文庫)
「書物の王国12 吸血鬼」(須永朝彦・編、国書刊行会)
「百鬼解読」(多田克己、講談社)
「日本の海の幽霊・妖怪」(関山守弥、中公文庫)


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